ある日いつものようにY君と別れた後の帰り道
ぽつんと独りになった時に、その悪寒は
突然の大雨のように降りかかってきたのです。
その日Y君が
「以前X町で3年ほど勤務したことがあります。」
と語ってくれた一言が引き金となりました。
X町…実は僕も同じ頃、近くに勤めていたのです
Y君には黙っていたけど。
その町には、僕の封印したい過去がありました。
実はその町のはずれにZ公園というのがあって
その筋では有名なゲイのハッテン場でした。
僕はふだんなら決して地元のハッテン場なんか
近づかない人間です。
ところが当時若さゆえの持て余した性欲と
その頃の将来への漠然とした不安とが相まって
一度だけその性地へ足を踏み入れたのです。
そして噂のトイレで待っていると程なくして
まだ学生のような男子が、僕の隣に立ちました。
それから排尿時間とは思えぬ長い時を、
僕らはお互い便器に向かい立ち尽くしてました。
ついに僕はこらえきれず小便器を離れて
個室に入りドアを開けていました。
すると滑り込むように個室に入ってきた
男子の顔を、今はっきりと思い出したのです。
僕は最初からYと出会っていた…
いや、それどころか僕たちはすでに
二匹の獣のように、狭くて汚い檻の中で、
吐息だけを交わし、お互いをむさぼり合っていた。
しかも彼の樹液の味まで、僕は知り尽くしていた…
なぜYと出会った時に、すぐにわからなかったか
不思議に思うかも知れませんが、
数年前、薄暗闇の中でのわずか数十分間の逢瀬では
記憶もおぼろげだったのです。
ただ僕は、当時あの町にいたYが
彼であったことを直感的に確信しました。
そう思えば思うほど、何から何まで
Yに対する一連のわだかまりに納得がいくのです。
しかし一方でYがあの時の僕を覚えていて
近づいて来たとは、到底思えません。
彼にとってその時の僕は、
行きずりの男としか見えていなかったはずです。
僕は、この疑念、もしくは確信を
Yに告げるかどうかを一晩中悩みました。
ただこれまで交友を深めてきた二人の関係が、
どうにかなってしまうほど、僕たちは、
うぶな子どものままじゃないだろうと結論しました。
午前零時とともに単刀直入なメールを彼に送ります。
「僕たちは初対面じゃなかったかも知れない。
…Z公園に行ったことはない?」
そして彼の裁断と次の返信を待ち続けたのです。
それが、とどめの一撃になったとは知らずに、
ずっとずっと…
(後編につづく)
ぽつんと独りになった時に、その悪寒は
突然の大雨のように降りかかってきたのです。
その日Y君が
「以前X町で3年ほど勤務したことがあります。」
と語ってくれた一言が引き金となりました。
X町…実は僕も同じ頃、近くに勤めていたのです
Y君には黙っていたけど。
その町には、僕の封印したい過去がありました。
実はその町のはずれにZ公園というのがあって
その筋では有名なゲイのハッテン場でした。
僕はふだんなら決して地元のハッテン場なんか
近づかない人間です。
ところが当時若さゆえの持て余した性欲と
その頃の将来への漠然とした不安とが相まって
一度だけその性地へ足を踏み入れたのです。
そして噂のトイレで待っていると程なくして
まだ学生のような男子が、僕の隣に立ちました。
それから排尿時間とは思えぬ長い時を、
僕らはお互い便器に向かい立ち尽くしてました。
ついに僕はこらえきれず小便器を離れて
個室に入りドアを開けていました。
すると滑り込むように個室に入ってきた
男子の顔を、今はっきりと思い出したのです。
僕は最初からYと出会っていた…
いや、それどころか僕たちはすでに
二匹の獣のように、狭くて汚い檻の中で、
吐息だけを交わし、お互いをむさぼり合っていた。
しかも彼の樹液の味まで、僕は知り尽くしていた…
なぜYと出会った時に、すぐにわからなかったか
不思議に思うかも知れませんが、
数年前、薄暗闇の中でのわずか数十分間の逢瀬では
記憶もおぼろげだったのです。
ただ僕は、当時あの町にいたYが
彼であったことを直感的に確信しました。
そう思えば思うほど、何から何まで
Yに対する一連のわだかまりに納得がいくのです。
しかし一方でYがあの時の僕を覚えていて
近づいて来たとは、到底思えません。
彼にとってその時の僕は、
行きずりの男としか見えていなかったはずです。
僕は、この疑念、もしくは確信を
Yに告げるかどうかを一晩中悩みました。
ただこれまで交友を深めてきた二人の関係が、
どうにかなってしまうほど、僕たちは、
うぶな子どものままじゃないだろうと結論しました。
午前零時とともに単刀直入なメールを彼に送ります。
「僕たちは初対面じゃなかったかも知れない。
…Z公園に行ったことはない?」
そして彼の裁断と次の返信を待ち続けたのです。
それが、とどめの一撃になったとは知らずに、
ずっとずっと…
(後編につづく)