2021年7月に初版された「オーバーヒート」

第165回芥川賞候補作、
哲学者の書いた本格的純文学、
そういう肩書を見ただけで
アレルギー反応を起こしそうなんですが
ここに登場する主人公「僕」がゲイで
筆者であり大学院教授である千葉雅也さんと
重なるところが多い私小説的なお話と聞けば
何となく読んでみたくなりました。

全体的な印象としては、秋の透明な風のように
心地よい清涼感が、ワイシャツの襟元から
素肌を通り過ぎていくような作品です。
さて詳しいあらすじの紹介と読後の書評は
その筋の専門家にお任せするとして…(^^ゞ
え~できないの~?と言われそうですが
全編に漂う理知的で高度な香りと
美的な言葉の糸を張り巡らせたゲイ術品で
僕のような凡人が、無造作に採り上げるのは
まことに身の程知らずかと思います。

ですが僕にも大変よく分かる一節がありまして
それはやっぱり二丁目やウリセンのお話で
ここだけは「うんうん、わかるわかる」と
うなずきながら読んでしまいました。

以下その箇所より、ほしいままに抜粋しました。
「案内されたソファーはあちこちに破れがあり
無造作にガムテープで補修されている…
ウリ専は行くと決めると
イケメン天国のような期待が膨らむが、
現実は実にみすぼらしいものなのだ。」

「1人の男が存在していた。
写真は加工のせいでアイドル風だったが
実際にはニキビ跡のでこぼこがあり…
確かに写真の人物だとわかるが、
その記憶をドンと突き飛ばして
今、目の前にはトンカツの衣みたいに
ガサガサした現実が立ちはだかっていて
僕は息を呑んだ。」

「2人で仲通りを北上し、靖国通りを渡り
新宿5丁目でコンビニに寄った…
個室があるのは何の変哲もないマンションで
住宅にしか見えないドアが開かれると
やはりごく普通の玄関で、靴箱もあり
まるで家に帰って来たみたいだった。
前に客がいたのかクーラーはかけっ放しで
適度に涼しくなっている。
その簡易ベットに並んで腰を下ろし、
コンビニで買った飲み物を開けた…」

「向こうの壁には細長い鏡があり
僕は立ち上がってそこで自分の肉体を見た。
30代の半ばから溜り始めた腹の脂肪が気になる。
己の肉体の美的価値にこだわるゲイの男は
中年期になると焦燥感を伴って筋トレを始める。
その限界というものが鏡にそのまま映し出された。
こんなオッサンを抱いてもらうのか…」

「明かりを枕元のランプだけにして
二人とも腰にタオルを巻きつけた状態で
部屋の真ん中に向かい合わせに立った。
恋愛感情があるわけでもなく
ただ何かいやらしいことを始めようと
しているだけのこの純粋な痺れる興奮。」

「抱き合う。口づけする。首を舐められ
耳元で「どっちがいい?」と言われるので
もうオッサンなのに恥ずかしいが
「一応ネコだけど」と答えると
僕の全身を絞るように抱きしめ
そして鎖骨から乳首へと舌を滑らせていった。」

「…ベッドで仰向けになると、彼の重たい体が
冬の一番厚い布団のように被さってくる。
温かい。鋭い眼、インクのように黒い瞳。
誰かに似ていた。誰なのだろう?
彼はきっとどこにもいない。
だが今ここにいる。」

この後はゲイビ顔負けの生々しい描写となりますが
引用はここまでにしておきます。
もう画像を差し挟むことがおせっかいなぐらいに
この文章表現は想像を鮮明に掻き立てます。
本当はこの一節も小説全体からすれば
断片的な1エピソードすぎない、酒のおつまみ
みたいなものなのですが、僕としては
若き大学教授としての理知的な視線よりも
こんな人間臭い、翳りのある裏の顔の方が
読みたくてたまらないのです。

千葉雅也さんの小説は他にも「デッドライン」
「マジックミラー」等々ありますが
勢いで全部読んでしまいました。
またいつかそれらのオイシイ部分を紹介したいと
思います。
合わせて読みたい男色文学の最高峰と言えばこちら

第165回芥川賞候補作、
哲学者の書いた本格的純文学、
そういう肩書を見ただけで
アレルギー反応を起こしそうなんですが
ここに登場する主人公「僕」がゲイで
筆者であり大学院教授である千葉雅也さんと
重なるところが多い私小説的なお話と聞けば
何となく読んでみたくなりました。

全体的な印象としては、秋の透明な風のように
心地よい清涼感が、ワイシャツの襟元から
素肌を通り過ぎていくような作品です。
さて詳しいあらすじの紹介と読後の書評は
その筋の専門家にお任せするとして…(^^ゞ
え~できないの~?と言われそうですが
全編に漂う理知的で高度な香りと
美的な言葉の糸を張り巡らせたゲイ術品で
僕のような凡人が、無造作に採り上げるのは
まことに身の程知らずかと思います。

ですが僕にも大変よく分かる一節がありまして
それはやっぱり二丁目やウリセンのお話で
ここだけは「うんうん、わかるわかる」と
うなずきながら読んでしまいました。

以下その箇所より、ほしいままに抜粋しました。
「案内されたソファーはあちこちに破れがあり
無造作にガムテープで補修されている…
ウリ専は行くと決めると
イケメン天国のような期待が膨らむが、
現実は実にみすぼらしいものなのだ。」

「1人の男が存在していた。
写真は加工のせいでアイドル風だったが
実際にはニキビ跡のでこぼこがあり…
確かに写真の人物だとわかるが、
その記憶をドンと突き飛ばして
今、目の前にはトンカツの衣みたいに
ガサガサした現実が立ちはだかっていて
僕は息を呑んだ。」

「2人で仲通りを北上し、靖国通りを渡り
新宿5丁目でコンビニに寄った…
個室があるのは何の変哲もないマンションで
住宅にしか見えないドアが開かれると
やはりごく普通の玄関で、靴箱もあり
まるで家に帰って来たみたいだった。
前に客がいたのかクーラーはかけっ放しで
適度に涼しくなっている。
その簡易ベットに並んで腰を下ろし、
コンビニで買った飲み物を開けた…」

「向こうの壁には細長い鏡があり
僕は立ち上がってそこで自分の肉体を見た。
30代の半ばから溜り始めた腹の脂肪が気になる。
己の肉体の美的価値にこだわるゲイの男は
中年期になると焦燥感を伴って筋トレを始める。
その限界というものが鏡にそのまま映し出された。
こんなオッサンを抱いてもらうのか…」

「明かりを枕元のランプだけにして
二人とも腰にタオルを巻きつけた状態で
部屋の真ん中に向かい合わせに立った。
恋愛感情があるわけでもなく
ただ何かいやらしいことを始めようと
しているだけのこの純粋な痺れる興奮。」

「抱き合う。口づけする。首を舐められ
耳元で「どっちがいい?」と言われるので
もうオッサンなのに恥ずかしいが
「一応ネコだけど」と答えると
僕の全身を絞るように抱きしめ
そして鎖骨から乳首へと舌を滑らせていった。」

「…ベッドで仰向けになると、彼の重たい体が
冬の一番厚い布団のように被さってくる。
温かい。鋭い眼、インクのように黒い瞳。
誰かに似ていた。誰なのだろう?
彼はきっとどこにもいない。
だが今ここにいる。」

この後はゲイビ顔負けの生々しい描写となりますが
引用はここまでにしておきます。
もう画像を差し挟むことがおせっかいなぐらいに
この文章表現は想像を鮮明に掻き立てます。
本当はこの一節も小説全体からすれば
断片的な1エピソードすぎない、酒のおつまみ
みたいなものなのですが、僕としては
若き大学教授としての理知的な視線よりも
こんな人間臭い、翳りのある裏の顔の方が
読みたくてたまらないのです。

千葉雅也さんの小説は他にも「デッドライン」
「マジックミラー」等々ありますが
勢いで全部読んでしまいました。
またいつかそれらのオイシイ部分を紹介したいと
思います。
合わせて読みたい男色文学の最高峰と言えばこちら