ソラリスの島

生き物であり、人であり、男であり、 ゲイであり、◯◯である、 僕のささやかなエッセイです。 どこからでもお読みいただけたら幸いです。

文学・古典

千葉雅也さんの「オーバーヒート」を斜め読みした

2021年7月に初版された「オーバーヒート」
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第165回芥川賞候補作、
哲学者の書いた本格的純文学、
そういう肩書を見ただけで
アレルギー反応を起こしそうなんですが
ここに登場する主人公「僕」がゲイで
筆者であり大学院教授である千葉雅也さんと
重なるところが多い私小説的なお話と聞けば
何となく読んでみたくなりました。
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全体的な印象としては、秋の透明な風のように
心地よい清涼感が、ワイシャツの襟元から
素肌を通り過ぎていくような作品です。
さて詳しいあらすじの紹介と読後の書評は
その筋の専門家にお任せするとして…(^^ゞ
え~できないの~?と言われそうですが
全編に漂う理知的で高度な香りと
美的な言葉の糸を張り巡らせたゲイ術品で
僕のような凡人が、無造作に採り上げるのは
まことに身の程知らずかと思います。
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ですが僕にも大変よく分かる一節がありまして
それはやっぱり二丁目やウリセンのお話で
ここだけは「うんうん、わかるわかる」と
うなずきながら読んでしまいました。
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以下その箇所より、ほしいままに抜粋しました。

「案内されたソファーはあちこちに破れがあり
 無造作にガムテープで補修されている…
 ウリ専は行くと決めると
 イケメン天国のような期待が膨らむが、
 現実は実にみすぼらしいものなのだ。」
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「1人の男が存在していた。
 写真は加工のせいでアイドル風だったが
 実際にはニキビ跡のでこぼこがあり…
 確かに写真の人物だとわかるが、
 その記憶をドンと突き飛ばして
 今、目の前にはトンカツの衣みたいに
 ガサガサした現実が立ちはだかっていて
 僕は息を呑んだ。」
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「2人で仲通りを北上し、靖国通りを渡り
 新宿5丁目でコンビニに寄った…
 個室があるのは何の変哲もないマンションで
 住宅にしか見えないドアが開かれると
 やはりごく普通の玄関で、靴箱もあり
 まるで家に帰って来たみたいだった。
 前に客がいたのかクーラーはかけっ放しで
 適度に涼しくなっている。
 その簡易ベットに並んで腰を下ろし、
 コンビニで買った飲み物を開けた…」
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「向こうの壁には細長い鏡があり
 僕は立ち上がってそこで自分の肉体を見た。
 30代の半ばから溜り始めた腹の脂肪が気になる。
 己の肉体の美的価値にこだわるゲイの男は
 中年期になると焦燥感を伴って筋トレを始める。
 その限界というものが鏡にそのまま映し出された。
 こんなオッサンを抱いてもらうのか…」
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「明かりを枕元のランプだけにして
 二人とも腰にタオルを巻きつけた状態で
 部屋の真ん中に向かい合わせに立った。
 恋愛感情があるわけでもなく
 ただ何かいやらしいことを始めようと
 しているだけのこの純粋な痺れる興奮。」
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「抱き合う。口づけする。首を舐められ
 耳元で「どっちがいい?」と言われるので
 もうオッサンなのに恥ずかしいが
 「一応ネコだけど」と答えると
 僕の全身を絞るように抱きしめ
 そして鎖骨から乳首へと舌を滑らせていった。」
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「…ベッドで仰向けになると、彼の重たい体が
 冬の一番厚い布団のように被さってくる。
 温かい。鋭い眼、インクのように黒い瞳。
 誰かに似ていた。誰なのだろう?
 彼はきっとどこにもいない。
 だが今ここにいる。」
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この後はゲイビ顔負けの生々しい描写となりますが
引用はここまでにしておきます。
もう画像を差し挟むことがおせっかいなぐらいに
この文章表現は想像を鮮明に掻き立てます。
本当はこの一節も小説全体からすれば
断片的な1エピソードすぎない、酒のおつまみ
みたいなものなのですが、僕としては
若き大学教授としての理知的な視線よりも
こんな人間臭い、翳りのある裏の顔の方が 
読みたくてたまらないのです。
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千葉雅也さんの小説は他にも「デッドライン」
「マジックミラー」等々ありますが
勢いで全部読んでしまいました。
またいつかそれらのオイシイ部分を紹介したいと
思います。 

合わせて読みたい男色文学の最高峰と言えばこちら







男捨離

これはそう遠くはない未来のお話
AIロボットが一家に一台が当たり前の時代になり
誰もが自分のニーズに合わせた
AIロボットを所有するようになった。
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僕のAIロボット、MIKOTO・D3は初期型の
いわゆる「お友だちロボット」1号機で
出会った時は、MIKOTOが少しお兄さんだったけど
男の子同士で一緒に遊んだり
さびしい僕の話し相手になったりしてきた。
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そして青年期にさしかかっていた僕は
女の子には目もくれず
MIKOTOのことを友達以上に好きになってしまい、
オプションの「LOVE対応」を追加してもらって
それからはMIKOTOと僕は
オトナの関係もつくれるようになった。
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こうして僕らはどんな時も一緒だったし
もう僕は結婚なんかしなくても
MIKOTOさえいてくれれば十分だった…

僕たちの20年の幸せな歳月があっという間に
過ぎ去ったある日、
MIKOTOの姿形は20年前と変わらなかったが
人間である僕よりも
はるかに速いスピードで老朽化していった。
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もはやMIKOTOと同じような旧式のロボットは
どこにも残っていなかった。
そしてMIKOTO・D3の初期型のデータメモリーは
現在どの新型ロボットとも互換性がなく
引き継ぐことはできないのだと
新製品を売りつけに来たセールスマンが
何度も念押しした挙句
このままだとMIKOTOは毎回故障を繰り返し
そのたびに内蔵回路は損傷し、
近いうちに2度と復旧できなくなるだろうと
宣告した。
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そんな自身の終末さえ自覚できず
MIKOTOはあどけない子どもに戻ったように
「あ・そ・ぼ」と無邪気に顔を寄せて来る。
MIKOTOは当時流行した色白できゃしゃな体型だったけど、
その胸にオリオン座の三ツ星のようなホクロがあるとこが
既製品であった彼の唯一の個性を表しているようで
それがたまらなく好きな僕は何度もそこに顔をうずめた。
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そしてついにMIKOTOは、全崩壊の一歩手前まで来た。
その時「ねえボクは、もうすぐいなくなるんだね。
    さびしくなるなぁ。」
と正気に返って言うもんだから
僕は背中を向けて肩を震わせるしかなかった。
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「だいじょうぶ。ボクの体も頭脳も全部
 スクラップにされちゃっても、
 キミのことを絶対に忘れないから。約束しよ。」
そう指切りげんまんしようとしたMIKOTOは
小指を出したきり、そのまま二度と動かなくなった…
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その後僕はどうしようもない寂しさを埋めるために
新型の「執事ロボット」をリリースしたが
それ以来どこをどう探しても
MIKOTOの片鱗さえ見つからなかった。

ある日「だんな様、お荷物が届いております。」と
執事に差し出された小箱を開けてみると
それは「電気シェーバー」だった。
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近未来、男性美容の領域も進化を遂げ
永久脱毛処理が当たり前の時代となったが
僕はいまだに、毎日ひげをそる
古い時代の習慣をそり残している。
ちょうど新しいひげそりがほしかったんだ。
でも誰がそれに気づいて贈ってくれたんだろう?

そいつはひげそりらしくない白いボディーに
3つの並んだ黒点がデザインされていた…
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ロボットを愛してしまうお話はこちらにも…











太陽の息子【アポロンの息子たち➀】

ギリシャ神話で最も強く、しかも美しい男神を
挙げるとしたら、おそらくこのお方…
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そう、太陽神アポロン
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彼は他にも、音楽の神、医学の神、予言の神、
羊飼いの守り神等、多数の異名を連ねるが、
その永遠に若々しい理想の青年像と
文武に秀でた全知全能の神としての完璧なまでの神格は
もはや「絶対王者」としか言いようがない。
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さて、光り輝く天下人、アポロンなのだが
彼も人の親であり、何人かの息子がいるのを
ご存知だろうか。
ところが、その息子たちは一様に影が薄くて、
よほど精通してなければ、名前さえも浮かばぬだろう。
まさに親の七光りのために、日の目を見なかった
息子たちは、父親の威光に到底及ばぬどころか
それぞれに不幸な人生を背負っていたのだ。
今回は、その中の最も哀れな息子
パエトーンを紹介したい。
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パエトーンは母親から常々
「あなたの父親は太陽神アポロンだ」
と聞かされていたが、
彼の友だちは1人として
その話を信じてくれない。
何とか自分があのアポロンの息子だと
証明したいパエトーンは
アポロンの宮殿を訪ね
一度でいいから父と同じように
あの日輪の馬車を走らせたいと懇願する。
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一度は断ったアポロンも
父の名を語れぬ息子を不憫に思い
ついには馬車を貸すのだが…
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もともと人知を超越した神の乗り物は
たやすく操縦できるはずがなく、
突如目の前に現れた大サソリに馬は暴走し
天空と地上をことごとく焼き焦がしてゆく。
やむなく大神ゼウスが雷でこれを射て
パエトーンは燃えさかる炎に包まれ
地上に墜落していく。
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…父さん、許してください。
だけどオレは一度でいいから、
父さんのように輝きたかっただけなのです…
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ああ、哀れな息子、パエトーンよ
お前こそが、私の後を継ぐ者として期待をかけたのだ…
お前にすべての光を託し、一線を退いた私は
やがて静かに光を閉じていくことを夢見た
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今日まで私は太陽神として、あまねく地上に
光と熱を降り注いできた。
すべて分け隔てない愛の証として…。
けれども私は、この世界のすべてを
深く愛していたわけではなかった。
そう、お前を失って初めてわかったのだ。
私とて、万能な博愛主義者ではない。
1人の息子を愛する、愚かな1人の父親に
すぎないのだよ。
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しかし、悲しみのどん底に突き落とされてもなお
私はお前の分まで輝き続けねばならぬ。
少なくとも、あと50億年は…。
それは辛く長い老境の始まりなのかも知れない。
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願わくは、もし生まれ変われるのであれば
私は太陽ではなく、月となって
お前の光に、照らされたかった…
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この神話こそがまさに
僕が終生背負っていく極限の悲しみなのだと
いつか誰かに気づいてもらえるでしょうか…
合わせて読みたい父子はこちら








同性義の世界「陳情令」

2019年のこと中国で「陳情令」という
歴史ファンタジードラマが放映されていました。
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原作がBL小説だっただけに
同性愛には厳しい中国共産党が
よく放映許可したものと思いましたが、
「これは同性愛を描いていない、
 男同士の義、同性義の作品だ。」と
製作者たちが主張し、押し切りました。
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僕自身、ドラマの内容を知らないので
何とも言えませんが、その映像美には
酔いしれてしまいました。
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今宵あなたとも是非、画を肴に
心ゆくまで酌み交わしたいかと思います。
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ところで「義」とは何でしょう?
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「義」とは、正しい考えを貫くこと。正義。
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また「義」とは
我が身の利害損得を顧みず、相手のために
命をも惜しまず、尽くすこと。忠義。信義。
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そして「義」とは
血縁関係のない者同士が固く信頼し合い
結ばれること。義母。義兄弟。
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江戸時代の古典「雨月物語」の「菊花の契り」の章では
死してなお、友との固い約束を果たすために
魂となって千里の道を駆け抜け
会いに来るという男同士の厚い信義が描かれています。
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もしかしたら「義」とは、その一途さ、誠実さ
そして絆の強靭さから推し量りますと
「愛」という甘美さでは達しえない
男同士の最高レベルの交わりなのかも知れません。
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僕も、同性義を尽くしたい無二の相手と
いつか出逢いたいなと思いました。
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こちらも「同性義」の作品ととらえると
納得がいくかと思います。




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読書の秋「愛読書は」と聞かれて何と答える?

最近の就職面接で「愛読書は?」と聞かれることが
いつもの3倍に急増したそうです。
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確かにコロナの巣ごもりで、読書に向かう機会が
増えたからとも言えますが、
僕自身、コロナ禍で読書が多くなったかと言うと
そうでもないどころか、ここ数年のレベルで
まともに本を読んでないことに気がつきました。
もし仮に今誰かに「愛読書は?」と尋ねられたら
何と答えようか…
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「愛読書」というぐらいだから
何年も何回も読み返すほどの作品だろうし
やはり古典的な名著を取り上げた方が
無難でしょうか?



しかし、ついついGAY的な作品を選んでしまって
気づかれたら、どーするんだ?




どうせGAY的な作品なら、現代のモノの方が
タイトルからは気づかれにくいかも…?



だめだ、こいつら、もれなく映画化されてるし
しかも「彼女の好きなものは…」に続くのは
「ホモであって僕ではない」という
あからさまなタイトルなんだから~(^^ゞ

じゃあ、童心に返って、童話とかおとぎ話とかでは…




いやいや、こいつアブないヤツと
GAY以上に警戒されるかも…

それならいっそSFとかだとどーなる?



ううう、わからん、理解不能…

なら漫画という手もあるか?



う~ん、いい年こいて漫画が愛読書ではなぁ…
しかもファイナルファンタジーは攻略本だし。

そう言えば昔読んだ話でショートショートなんだけど
心に残ったものがあったっけ…



ああ、そうだ、僕自身が書いた自伝的短編小説があったな…



ははあーん、わかったぞ、ラシンさん
自分のかつてのブログ記事に
日の目を見させようとして
こんな企画を立ち上げたんでしょ…

あらら、ヤリすぎて、バレちゃいましたか…
ご明察どおりてす。
壮大な番宣、もとい、ブロ宣でした(^^ゞ
まっブログ読み返すのも、一つの読書ですからね
読書の秋を満喫しましょ♡
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そう言えば昔、読書をテーマにした
「愛を読むひと」という作品がありましたっけ
地味だけど、本だからこそ伝えられる愛もあります…
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本よりも、本物が見たいかも?

悪人

最近のネットニュースって
ほんとうにいろいろな人が
もろもろの理由で叩かれていますね。
人の言論行為を批判する自由はあるのかも
知れませんけど
見聞きしていて、とても悲しくなります。
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ふと吉田修一さんの著した「悪人」を
思い出しました。
2010年9月11日に妻夫木聡主演で映画化されました。
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若い女性の殺人事件
その容疑者として浮かび上がった
土木作業員の祐一(妻夫木)は
偶然に知り合った女性、光代と
警察やマスコミ、世間の目を逃れての
逃避行をしていきます。
その中でやがて二人は
お互いの孤独な魂を寄せ合っていくのですが…
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この作品は観る者すべてに
こう問いかけてきます。
いったい誰が、ほんとうの悪人なのか?と。
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確かに直接手を下したのは祐一だったのだから
祐一には、そうしなければならなかった
いかなる理由があったと言えども
社会的に償わなければならない大きな罪があります。
また、それを最後までかばい続けた光代にも。
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しかし、それだけでしょうか?
行き所のない深い暗闇に突き落とされた
被害者の父と、加害者の祖母は
いったいいかなる所以で
誰に責められ続けられているのか
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「ほんとうに人殺しちゃうなんて
 もう異常者としか言えない。」
「職業が、土木作業員だって…」
「しかも異常性愛者だったらしいよ…」
「とんだヘンタイ野郎じゃん。」
「親はいったい何考えてるの。
 親の顔が見たいよ。」
「まあ、これで終わりだね。
 こんなやつは一生監獄にぶち込んで
 出て来られないようにしてほしい。」
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社会の常識や規範から外れた者を
ことごとく難癖をつけて攻撃し
人が人をおとしめていく
そんな悪人に群がる悪人もいる…。
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少なくとも僕は、悪人の1人です。
ただ、もうこれ以上、人を苦しめ続ける
悪人にはならないように自戒しつつ
ひたすら、相手に誠意をもって
生きていきたいと思っています。
いは
合わせて問いたい記事はこちら





七瀬ふたたび

子どもの頃に「七瀬ふたたび」という
SFを読んだことを、ふと思い出しました。

主人公「七瀬」は人の心が読める超能力者です。
「家族八景」という小説の中に初めて登場し、
家政婦として、いろいろな家族に入り込みながら
それぞれの人間の裏感情や腹黒い欲望、
八軒の家族の虚偽をあぶり出していくという
まさに「家政婦は見た、エスパー版」
なのです。

その七瀬が二作目の「七瀬ふたたび」では
これまで超能力者ゆえに孤独だった彼女が
自分と同じ境遇でありながら異種の超能力をもった
様々な仲間とめぐりあい、
まるで家族のように共同生活を始めていくのです。
※以下、僕のイメージしたキャスティングで
 ここに劇場版に仕立ててみました。
(故人を偲ぶお盆バージョンでもあります。)

七瀬と同じく人の心を読みとるテレパスの子ども「ノリオ」
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未来がわかる予知能力者の「恒夫」
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手を触れずどんな物でも動かす念動力者の「ヘンリー」
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どんな時間、場所へもテレポーテーションできる
永遠不滅の超能力者、時空航行者の「藤子」
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そしてここに七瀬自身を加えると
まさに最強無敵のエスパー5人組だったのです。
ところが、これに対抗し、
超能力者は国家を不安に陥れる人類の敵と見なし
秘密特殊部隊が編成され「超能力者全員抹殺計画」が
水面下で着々と遂行されていくのです。

5人で最初の犠牲者となったのは
予知能力者の恒夫でした。7月18日のことです。
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彼はいつからかまったく同じ予知夢しか
見ることができなくなったのです。
それは何とも美しい夕焼けの光景でした。
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そこが自分の死に場所だと気づいた時には
一発の銃弾に貫かれ、その最期に瞳に映った夕焼けを
テレパシーで七瀬に送ったのでした。
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残された4人は恒夫の死を悲しむ間もなく
迫りくる追っ手から逃げていきます。
けれどもゾンビのように何度倒しても
後から後から湧き出て来るあまりの執拗さに
ヘンリーは念動力の力を使い果たします。
昨年1月26日、墜落事故で命を落としました。
生きていればこの8月23日に
43歳の誕生日を迎えたところでした。
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その特殊能力から最も生存可能な立ち位置にいた
藤子は、20分後の全員抹殺される未来から
瀕死の状態で七瀬の元に戻り
「あなただけは逃げて」と伝えて息絶えました。
タイムラグがあるため、彼女の絶命は
5人中の最後となり、9月27日のことです。
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そして最も短い生涯だった少年ノリオは
「オネエチャン、ボク、シンジャッタ…」と
テレパシーで七瀬に伝え、小さな命の灯が消えます。
8月31日の水難でしたが、
彼の死は翌年1月5日まで伏せられました。
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1人残った七瀬は、4人の待ち受ける団らんの風景を
藤子に夢見させてもらいながら
絶え間ない銃声が響く中で、ふと微笑んで、
虚無の世界へと旅立っていくのでした。
まもなく9月14日に一周忌を迎えます。
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ああ「七瀬ふたたび」ふたたび…
僕だったら上記のキャスティングで
メガホンを取ります。
…もう二度と、かなわないことですが…

11年前の筒井康隆作家50周年記念の時の
劇場版予告編はこちら
恒夫(了)役の田中圭さん
ヘンリー役のソフトバンクのお兄さんが
七瀬を追悼しているかのように目に映りました。

七瀬さん、どうか無二の仲間たちとともに
天国でお幸せに…
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大切なものが次々と消えていく物語は
哀しいけど、何かがずっと心に残ります…。






永らへばまたこの頃やしのばれむ

この命よ
絶えるものなら
いっそ今なくなってほしい
これ以上長く生きていたら
自分の本性を隠し通すことがもう
できなくなってしまうから
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たおやかな一首の歌の中に
命さえもいとわぬ忍ぶ恋の覚悟が張りつめる。
自らの魂の昇華のために身の消滅を図ろうとする
潔さが、美しいと言えば美しい絶唱だ。

古来よりわが国にはこうした「滅びの美学」と
いうものが存在する。
諸行無常の「平家物語」「義経記」
戦国の世の武将たち、信長、光秀、幸村
幕末の志士たち、竜馬、西郷、白虎隊
ゼロ戦特攻隊等々
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だが果たしてそうだろうか?
死ぬこと、消滅することが美しいのだとしたら、
生きること、継続することの意味は何だろう?

誰もが、さしも面白くもない人生を
必死に生きもがいている
生き恥をさらしながら
醜くても懸命な生き方もある。
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先の式子内親王の「永らへば」とは
対極にある歌が藤原清輔の歌、僕の十八番だ。

永らへば またこの頃や しのばれむ
憂しと見し世ぞ 今は 恋しき
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【意訳】
この先、長く生きていれば
つらいと感じている今も
やがて懐かしく思い出されるのだろうか
あんなにつらかった昔の日々も
今では恋しく思われるのだから
【超訳】
今日の中の昨日
明日の中の今日
過去は花園 今地獄
人は過去の花園をバネにして
地獄の今を生きるのだ
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こうして僕は再び、この世の地獄を
生き恥をさらしながら
のたうち回ろうと思います。
美しくはあらねど、なお生きたし
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記念写真

これはその昔、高校の現代国語のテストで
出題された問題文でしたが、
テスト問題としては、あまりに鮮烈だったので
今もストーリーを忘れずに覚えてました。
そのあらすじを記憶を元に復刻しましたので
今宵皆様とともに読み味わいたいと思います。

「記念写真」…たぶん作;赤川次郎

 高校生の弓子は、日常すべてに嫌気がさし、
学校をサボって、とある辺鄙な岬に来ていた。
そこで、明るく屈託のない親子連れと出会い、
「家族で記念写真を撮りたいので、
 シャッターを押してくれませんか?」
と頼まれる。
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 その四人家族があんまり幸せそうなものだから
よけいに虫の居所の悪くなった弓子は
わざと親子四人をフレームから外して
海の風景しか写っていない写真を撮って
カメラを返した。
「ざまあみろ、幸福なんて糞くらえ!」
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 その後も弓子は平日で客もまばらなレストランで
時間つぶしをしていると、再びその家族が乗り込み
楽しそうに食事し出す。
父親が決しておいしそうもない冷めたオムレツや
ハンバーグを頬張る子どもの撮影を始めたことに、
ますますうんざりし「アホくさ!」とぼやく弓子。
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 やっと一家がランチを終え、
レストランを出ようとしたその瞬間、
ふと弓子に一抹の疑問が生じる。
「私もサボってるんだけど、あの子たち、
 学校はどうしたんだろ?ズル休み?
 それにしたって、こんな陰気臭い海、
 学校休んで来るとこじゃない…」
 外を見るといつしかどしゃぶりの雨が降っていた。
それなのに家族は、傘も差さずに雨の中を
口を結んでゆっくりと進んで行く…それはまるで…
 テーブルの上には、置き忘れられたように
あのカメラと一枚の紙きれが…
「これを拾われた方へ
 私たち家族は、訳あって、これから遠い所へ
 参ります。このカメラのフィルムに写っている
 家族四人の写真を、どうか遺影に…」
 弓子は店を飛び出し、
岬へと向かう家族の巡礼を追い、
雨中矢のごとく駆け出していた。
「幸福だって?…幸福だって!」
 断崖には、海に身体を向け
身を寄せ合うひとつの「幸せそうな」家族がいた。
「やめて!あなたたちの記念写真は撮れていないの!
 だから、まだ死んじゃだめぇーー」
弓子は絶叫していた…
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このブログを読んでくださっている皆様の中にも
一見幸福そうなのですが、決して推察もできぬような
はかり知れぬ哀しみや運命を背負われている方も
いらっしゃるのではないでしょうか。
どうかこんな僕とでよければ
お互いこれからもこの世界を生きぬきましょうね。
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最後にこの物語の結末をお読みください。

 四人は驚いて振り向いた。
ようやく追いついた弓子は、その場に倒れ伏し
わあわあと泣き崩れた。
 やがて弓子の肩に小さく温かな手が触れた。
女の子の手だった。
「私、死ななくてもいいの?」
少女の顔にはかすかな光が戻った。
父親と母親は息子を挟んで抱き合っていた。
 こんなに皆で泣き果て、ずぶぬれになりながら
弓子は、自分が心から幸福と呼べるものに
包まれていく瞬間を、今、静かに撮り終えていた…
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漱石の「こころ」にみる男同士の愛《終章》

「こころ」の第三章は
私の元に届いた「先生」の遺書に書かれていた
中身そのものになります。
そこにはもう危篤の父も姿を消し
それどころか今遺書を読んでいる私自身さえ
小説の舞台から消えてしまっているのです。
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在るのは過去の若い頃の「先生」と「友人K」の二人、
彼らが物語の終章を引き継いでいきます。

「友人K」とは先生にとって人生最大のライバルでした。
Kは文武両道の男で明晰な頭脳と強靭な肉体とを持ち
あたかも哲学者のように己の生き様を見据えていました。
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「先生」はそんなKに対して
羨望と嫉妬と、そして崇高な憧れを抱いていました。
だからこそ自分と同じ下宿にKを同居させ
Kと同じ空気を吸いこもうとするのです。
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しかしそこには大家のお嬢さんという
男同士の相愛には甚だ不要な存在がありました。
小説ではお嬢さんを最初に好きになったのは
「先生」であり、後からKが割り込んできて
男女の三角関係になったかのように描かれますが
むしろ割り込んできたのはお嬢さんで
Kと先生との間に何人も立ち入るべきではありませんでした。
このあたり所論が紛々としておりますが、
漱石の「こころ」に登場してくる女性に
共通して見られるのは、その存在感の希薄さです。
Kと先生から同時に愛されたお嬢さんとは
まるで薄い紙一枚のブロマイドのように
美しき幻影のままの存在にしかなり得ません。
むしろ脈々と血と愛を交わし合っているのは
Kと先生の男二人のように思えてなりません。
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しかしKはお嬢さん以上に「先生」を愛するがゆえに
自らの命を断つことで、二人の幸せを乞うのです。
その哀しみに潤んだKの瞳を最後に看取った「先生」は
最愛の友から何を汲み取ったのか…
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Kの死後、お嬢さんは「先生」の奥さんに収まりますが、
なおいっそう幽霊の如く影を潜めていきます。
それに引きかえ、Kは先生のこころの中で
永遠に生き続け、愛の慟哭を交わし続けることに
なるのです。
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第一章で「先生」と「私」は出会い
第二章で「私」は「父」にも「先生」にも先立たれ
第三章でその「先生」ですらかつて
最愛の友人「K」に先立たれているのですから
これは、愛する男たちすべて喪失していく物語でした。
「こころ」の読後に言いようのない哀しみに
襲われるのは、この世界に生きた男たちの
かなえられぬ愛の連鎖が、
こころを締めつけるからだと思うのです。
無題
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舟人の紹介

ラシン

初めまして。ラシンです。
ほぼ「裸身」ですが
ここを「羅針盤」として
進んでいく方向を
模索したいと思います

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