もう20年近く前になるのでしょうか?
僕が生まれて初めて、決死の覚悟?で
ゲイバーに立ち寄った時の話です。
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当時は自分でも悲しいほどの晩生(オクテ)で
バーのカウンター席に割り込んで座れても
時たま親切なマスターのお愛想が回って来るだけで
誰にも話しかけず、誰からも話しかけられずに
独り黙って、出されたおつまみと飲み物を
一片ずつ口に運んでいるだけ。
かろうじてその場に居て、時を過ごすのが精一杯で
そんなガチガチな臆病者など
このファンキーに盛り上がっている酒場には
およそ似つかわしくない存在でしかなかったのです。
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ついに、とりつくしまのない僕を煙たげに思ってか
隣の席のおしゃべり好きな巨漢がおもむろに
立ち上がり、どこかへ行ってしまうと
僕の隣には、ぽっかりと大きな空洞ができ
もはや落とし穴のように誰も近づかなくなりました。
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ところがそれからしばらくして
「ここ座っていいっすか?」という声が降りてきたので
ふと見上げると、地味なシャツを着た、くせ毛の青年が
僕の隣に座りました。
顔は、後から思えば山崎育三郎さんに似てた気がします。
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ますます身体を固くしてしまった僕に
アニキはさりげなく話しかけてくれ
時には相槌を打って、うんうんとうなずき、
自分も大勢で賑やかなのは苦手だと言うわりには
威勢よくマスターにおかわりしまくってました。
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「カラオケ歌わない?」
そう誘われたのに僕はうつむいて首を振ってしまいます。
当時の僕は、ここで通用する流行りの歌などレパートリーになく
このうちとけた雰囲気を白けさせまいと
かたくなに思い込んでいたからでした。
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「じゃあ、僕が歌うね!」
そう言ってアニキが選曲したのは、
なんと「都はるみ」…渋すぎる!という形容すら及ばない
およそ20代の若者の歌う曲ではなかったと思います。
ただ、タイトルを見たら
「あなたの隣を歩きたい」とありました。
初めて聞く題名だったし、もちろん初めて聴く歌です。
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アニキは、自分らしい声と歌い方で
この曲を僕の隣で、静かに歌い始めました…
それを今ここで再現できないのが残念ですが
歌唱法も山崎育三郎さんに似てた気がしました。
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歌い終わった時、僕を含めて座のすべての人たちが
隣の席のヒーローに拍手喝采を送っていました。
アニキは少しだけ照れ笑いをして
「マスター、お愛想」と言うや否や
そのまま席を立ち、出口のドアへと向かいました。
その時、もう一度振り返ったアニキが
僕に口パクで何かを言い残しました。
僕にはそれが「(この歌を)君にあげる…」
と言ってくれたように聞こえました。
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アニキと出会ったのは、それが最初で最後でした。
けれど、あれから長い年月が過ぎた今日でも
僕はめったに自分からは歌わないのですが、
その場で誰かのことを思いやりたい時には
決まってこの歌を捧げることにしています。


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