そこに君がいた。
北風吹きすさぶ夕刻に
Tシャツ一枚で震えていた。
「乗せてください」と書かれた
段ボールの切れ端を持って。
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いったんは速度を落とさず通り過ぎたが
魔が差したか、やがてUターンすることになる。
それが彼との数奇な旅の始まりだった。
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「どこまで行くの?」とかけた声に驚いて
振り向く彼の真っ直ぐな瞳に射すくめられ
内心オレの方がうろたえてしまった。
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「少しでも北へ」
「北へは行かないけど、東なら行くよ。」
「じゃあ東へ」
「乗って」
「ありがとうございます!」
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それがヒッチハイカーのマナーなのか
助手席を遠慮して後部座席に乗り込んだ。
バックミラーに映る彼と視線が合う。
目をそらさずににっこりと笑う彼に
思わずオレの方が目を伏せた。
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やがて辺りは夕闇に包まれ
ヘッドライトに照らされながら
いずことも知れぬ目的地へと
二人はひた走ることになる。
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二言三言の会話で、彼の素性はわかった。
出身は沖縄(どうりで南国風のイケメンだ)
大学を卒業し、国家試験を受け、結果が出るまでの間
1人であてのない旅がしたかったとのこと。
まるで追っ手の台風から逃れてきたような…。
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1時間後…
「すいません。雨でぬれちゃって…
 着替えてもいいですか?」
「えっ?あぁ、どうぞ…」
返答を待たずに脱ぎ始めた彼の筋肉質の体は
いさぎよく白く闇に浮かんだ。
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2時間も走ったろうか…高速道のSAで
「で、今日はどこに泊まるの?」
「考えていませんでした。野宿でもしようかと。」
「それじゃあ凍え死んじゃうよ。」
「じゃ近くのバックパッカーの宿に行きます。」

その日は連休半ばでバックパッカーの宿は
どこも満室で断られているようだった。

「やっぱりダメでした。」
「…じゃあ、オレんちに来る?」
「…あ、はい、お願いします。」
至極当然の成り行きのように、オレたちは引き返し
一条の光に吸い寄せられるように一軒家を目指した。
通い慣れた道のはずなのに今夜は
やけに遠く神秘的に曲がりくねっていた。

…こうしてオレたちの逃避行は始まることになる。
そして行き先がわからないのは、彼ではなく
間違いなくオレの方だった…。
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              ―第2話へと続く―

※この記事は以前実況をライブで配信したものです。