次の瞬間、僕は傘も持たずに、
雨中矢のごとく走り出した…
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あいつと出会ったのは3年前の雨の日だ
あいつはずぶぬれで独りぼっちで立っていた
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見るからにお腹を空かせ、行くあてもなく
寒さに震えていたことは、すぐにわかった
僕は思いきって声をかけた
その時、僕を見返してきた濡れた睫毛を、
もう放っておくことはできなかった
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「何か困っているようですが、
 僕にできることはありませんか?
 いつまでもここにいては風邪ひいちゃうよ
 迷惑でなければ、せめて体を拭くタオルと
 粗食を用意することはできるのですが
 よかったら僕と一緒に来ませんか?」
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あいつはうなずき僕の後について来た
僕は口のきけないあいつに、
できる限りのものを与えた
今晩泊まるところのないあいつに一夜の寝床を。
もちろん一緒に寝るわけにいかないだろうから
僕は別室で、うたたねをした
雨音に混じる、
あいつの安らかな寝息に耳をそばだてながら…

次の朝、あいつは元気を取り戻し僕の元を去った
住所も電話番号もメアドも名前さえも交換しなかった
だから、これが僕たちの永遠のお別れだと思っていた
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ところが、その三年後、あいつは僕の元へ訪ねてきた
人知を超えた第六感で、僕の居所を探り当てた
応対をした受付の事務員の話では
「この場所に3年前、 
 僕を助けてくれた人がいるはずです。
 どうしてもお礼がしたくて、
 沖縄から出てきました。
 お仕事中でご迷惑でしょうから
 どうか伝えてください。
 あの時は助けていただき
 ありがとうございました。」と…
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彼はそのまま立ち去ったという。
僕は、いぶかしく思う事務員の顔をよそ目に
雨の中に消えたあいつの影を追った
僕にはあいつともう一度会って
伝えなくちゃいけないことがあるんだ。

助けられたのは僕の方だったんだ
僕なんか何もできない役立たずだと、
つくづく自分が嫌になっていた
そんな矢先、僕を頼ってくれる君が目の前にいた
あの日僕は君のために何かができたことが、
嬉しくて嬉しくてたまらなかった
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だからお礼を言うのは僕の方
どうかもう一度会ってお礼を
神様お願いです
あいつともう一度会わせて下さい
もう一度会ってお礼を…
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これ、ほぼ実話です。

すべての始まりは、ここからでした…

たった一刹那のすれ違いを
僕はもう永遠に繰り返しているのです…